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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)4041号 決定 1957年12月05日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山崎季治、同中山淳太郎、同花房多喜雄、同田中秀次、同君野駿平の上告趣意第一点について。

(一)  論旨(1)及び(2)は憲法三七条違反をいうのである。しかし、原判決は第一審判決が無罪とした被告人渡辺至剛らの本件所為につき「原判決(第一審判決)は採証の法則に違反して適法にして証拠力の十分具備している証拠の価値判断を誤り、そのため事実を誤認し、罪となるべき事実を証拠がないとして認めず、或は誤って罪とならない事実を認めている違法を侵している。そのため、有罪を宣告すべきにかかわらず、無罪を宣告しているのであるから右誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかであるといわなければならない。よって、原判決(第一審判決)はこの点において破棄を免れない」として、第一審判決中右被告人らに関する部分を破棄した上、更に刑訴四〇〇条本文を適用して本件を原裁判所である鳥取地方裁判所に差し戻す旨を判示しているのである。即ち、原審は、事後審として、訴訟記録及び第一審において取り調べた証拠等を綜合して、本件第一審判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認、訴訟法違反ありとの判断を示しているに止まり、原審としては、未だ右破棄した部分について、直に自判することを得る段階に到達しているものとは認めなかったものであることは、判文上明瞭である。

しかるに所論は、原審は既に自判に適していることを自ら判示しておるものであるといい、最早や第一審に差し戻すべき理由がないものであるとして、原判示の前記の趣旨と異なるところをもって原判示の趣旨であると解し、これを前提として原判決の違憲をいうのであるから、右違憲の主張は前提を欠くものであって、採ることを得ない。

(二)  論旨(3)は憲法七六条違反をいうのである。しかし所論引用の原判決の「有罪の宣告をすべきにかかわらず、無罪を宣告しているのであるから右誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかであるといわなければならない云々」の文言は、第一審判決が無罪の理由としたところに事実誤認、訴訟法違反があって、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を判示する趣旨を出でないものというべきである。従って、差し戻しを受けた第一審裁判所は、第一審判決に事実誤認、訴訟法違反があり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとの原審の判断の範囲内において更に審理をなすべき拘束を受けるに止まり、本件につき必ず有罪の宣告をしなければならないというごとき拘束を受けるものではないと解するを相当とする。所論は原判示を右と異なる趣旨のものと解し、差戻しを受けた第一審裁判所は、有罪の宣告をするほかないものであることを前提として原判決の違憲をいうのであるから、右違憲の主張は前提を欠き、採ることを得ない。

(三)  論旨(4)乃至(6)は、違憲をいう点もあるが、その実質は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点について。

所論は違憲をいうが、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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